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「ツヤベタ」表現に隠された罠……「げんしけん」にて
オタ業界でないとちょっとわかりにくいネタをひとつ。

先日、オタ業界では有名な「げんしけん」(木尾士目)をちょびっと読み返したら、恐ろしいことに気づいてしまった。

オタサークルの日常を描いたこの作品に、コスプレイヤーをやってる大野さんというグラマーな女性キャラがレギュラーで登場する(一応断っておくと、オタサークルのなかにこういう身体的に高スペックな女性は意外といるのである)。で、驚いたのは、この大野登場から第4巻まで、彼女はコスプレをしているとき以外、彼女の「黒髪」にほとんどツヤベタ処理がされていなかったのだ(カラーページ除く)。

参考 (萌えプレ 画像も借りました)
http://blog.livedoor.jp/moepre/archives/50090667.html
ツヤベタの種類 (「ぬくぬくうさぎEX」内)
http://fumi08.web.fc2.com/tb_ls.html

マンガを描く人ならわかると思うが、黒髪はツヤベタ処理をすることで活きる。黒目にハイライトを入れるように、髪に光源を反映した規則的な白を入れることで、立体的になったり、みずみずしさが出たりするのである。現代マンガにおいて、長髪キャラにはほぼツヤベタ必須と言っていいだろう。

しかし、大野にはまったくといっていいほどツヤベタがない。「髪」に関するセリフのやりとりもあったりして、大野にとって重要なパーソナリティのひとつであるはずなのだが、あまりに描写がぞんざいなのだ。オタサークル「げんしけん」のムサイ男、斑目や田中にもツヤベタや髪の立体表現があるのにである。

ところが、第4巻から状況は一変する。大野と田中がつきあっていることが判明する回から、なんと毎回大野にツヤベタが発生するのだ。

……これは、あきらかに意図的にやっている。そう、大野は男ができてはじめて、髪をトリートメントするようになったのだ。

もっとはっきりと言えば、当初、木尾士目は大野を「長い髪をロクに手入れをしないキモ女」として描いているのである。読者(特に男性!)は彼女のおっぱいにばかり目が行くのでスルーしてしまうところだ。

そういえば、2巻93Pには、仲間の春日部が行きつけの美容院を紹介しようとするも大野から「いや~~そうゆう所慣れてないんで」と断られるシーンもあった。大野は美容院には行かない。でもコスプレのときはバッチリ髪に手を入れるのだ。このあたりの扱いの差に、「汚部屋はみっとないが、人に手を入れられるのはイヤ」というような、自分の聖域に他人が触れて欲しくないというオタク心理の表れがあるのだろう。そして、その心理の変化が「ツヤベタ(の有無)」という表現に隠されていたのである。

4巻で、主人公の笹原は、大野と田中が2人で秋葉原にいるところに遭遇し、はじめて2人がつきあっているらしいことに気づく。これは物語のレベルでは「秋葉原デートの現場」を目撃したことなのだが、表現のレベルで読者がここで目撃したものは、「ツヤベタのある大野さん」なのだ。ここでは、読者に意識されるかされないかギリギリのところで、大野が田中に好意を持ち、髪の手入れをしはじめたことに気づく仕掛けになっている。

「眉毛は手入れしないが、髪の毛ぐらいは手入れするようになった」という微妙なオタクの成長(?)を、「ツヤベタ」を逆手にとり、かつおっぱいのミスディレクション(視線の誤誘導)も利用してやわらかく表現した木尾士目はすごい。

「げんしけん」では、オタク全体のキモ部分を、木尾士目は揶揄するでもなくシニカルに突き放すでもなく、深い愛情をもって描写している。このことは何度も本作を読んでわかっていたはずだが、今回この点に気づいて、さらに感動してしまった。まだまだ、隠された描写がこの作品にはあるはずである。
by ka-kaname | 2007-06-05 02:57 | オタクな話題
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